甲状腺は、首の前部に位置する小さな臓器で、全身の代謝を調節するホルモンを分泌しています。特に、FT3(遊離トリヨードサイロニン)、FT4(遊離サイロキシン)、および TSH(甲状腺刺激ホルモン) は、エネルギー産生や体温調節、心血管系の働きに重要な役割を果たします。
甲状腺疾患の種類
甲状腺機能低下症(橋本病など)
甲状腺ホルモンが不足し、FT3、FT4が低値、TSHが高値 を示す状態です。典型的な症状や検査所見として以下が挙げられます。
- 倦怠感や疲労感
- 体重増加
- 皮膚の乾燥
- むくみ
- 寒がり
- うつ症状
- 高コレステロール血症(脂質異常症)
- 心房細動
- 心不全

(低エコー)
しかしながら、甲状腺機能低下症の方でも無症状のことがあり、健康診断や不妊治療などの検査で初めて異常が見つかることがあります。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)
甲状腺が過剰にホルモンを分泌し、FT3、FT4が高値、TSHが低値 を示す状態です。典型的な症状や検査所見として以下が挙げられます。
- 動悸や頻脈
- 体重減少
- 手指の震え
- 発汗が多い
- 眼球突出(バセドウ病特有)
- 肝機能障害
- 低カリウム血症
- 周期性四肢麻痺
(血流増加)
ただし、バセドウ病の方でも症状が軽い、または無症状の場合があります。また動悸や不安症状から心療内科を受診して異常を指摘される方もいらっしゃいます。
亜急性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎は、ウイルス感染が原因と考えられる一過性の甲状腺炎で、強い炎症を伴うことが特徴です。発症すると、一時的に甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、その後、機能が低下することがあります。主な症状は以下のとおりです。
- 甲状腺の痛み(触れると痛む、飲み込むと痛む)
- 発熱
- 倦怠感
- 甲状腺機能亢進症状(動悸、発汗、手の震えなど)
(境界不明瞭な低エコー散在)
亜急性甲状腺炎は自然に回復することが多いですが、痛みが強い場合は 消炎鎮痛剤(NSAIDs) や ステロイド を使用することがあります。
無痛性甲状腺炎
無痛性甲状腺炎は、自己免疫が関与すると考えられる甲状腺炎で、亜急性甲状腺炎とは異なり痛みを伴いません。一時的に甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるため、動悸や発汗がみられますが、自然に回復することが多いです。
甲状腺結節(腫瘍や嚢胞)
甲状腺内に結節(しこり)ができる疾患です。良性のものが多いですが、一部は甲状腺がんの可能性があります。症状がない場合も多いですが、大きくなると嚥下困難や声のかすれを引き起こすことがあります。
甲状腺疾患の検査
甲状腺疾患の診断には、以下のような検査を行います。
1. 血液検査
- FT3、FT4:甲状腺ホルモンの分泌量を確認します。
- TSH(甲状腺刺激ホルモン):下垂体から分泌され、甲状腺ホルモンの調整を行います。
- 抗TPO抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)、抗Tg抗体(抗サイログロブリン抗体):自己免疫性甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)の診断に有用です。
- TRAb(TSH受容体抗体):バセドウ病の診断に重要です。
2. 画像検査
- 甲状腺エコー(超音波検査):甲状腺の形状や結節の有無を評価します。(当院で可能です(予約制))
- 甲状腺シンチグラフィー:放射性ヨウ素を使用し、甲状腺の機能を調べます。
3. その他の検査(他院へ紹介させて頂きます)
- 甲状腺細胞診:結節が悪性かどうかを判断するために、細胞を採取して顕微鏡で調べます。
- 甲状腺機能負荷試験:甲状腺の反応性を調べる検査です。
不妊治療と甲状腺機能
甲状腺機能は妊娠を希望する方や不妊治療を受けている方にも影響を及ぼします。不妊治療中の方は、以下の点に注意が必要です。
不妊治療と甲状腺: TSH の値が高い(>2.5 mIU/L)と妊娠率が低下することが報告されているため、適正範囲(1.0~2.5 mIU/L)に調整することが推奨されます。適正な FT4 の値を維持するためにレボチロキシン(チラーヂンS) を投与することがあります
甲状腺自己抗体(TPOAb、TgAb)陽性の方: 不妊や流産のリスクが高まる可能性があるため、慎重な管理が必要です。