当院は肝臓専門医が在籍しています。
東京都の肝臓専門医療機関に指定されています。
近年、脂肪肝による肝機能障害が増えています。これまでは肝臓病の原因の多くはウイルス肝炎でしたが、抗ウイルス薬によって治癒/制御できるようになりました。
それにかわって脂肪肝による肝硬変や肝臓がんの増加が問題になっています。
NASHとNAFLD
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)はアルコールを飲まずに脂肪肝がある場合をいいます。NAFLDのうち肝炎を起こして血液検査でALTやγ-GTPなどの異常がある場合を非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と診断していました。
NASHはいずれ肝硬変や肝臓癌を引き起こすことがあります。
用語の変更 NAFLDからMASLDへ
NAFLDやNASHに含まれる「alcoholic(飲んだくれ)」や「fatty(太っちょ)」という用語が不適切な用語とみなされるようになりました。
またアルコール量の分類が不十分で、非アルコール性(NAFLD)とアルコール性(ALD)のどちらにも属さない脂肪性肝疾患があるなど不都合が生じるようになりました。
そこで2023年に用語の整理が行われました。
脂肪性肝疾患を全てひっくるめてsteatotic liver disease (SLD) と総称することとなりました。そしてこれまで使われていたNAFLD/NASHは、メタボリック症候群の基準の一部を満たす場合に限ってMASLD/MASHと診断することになりました。
これまでの分類で漏れていた、アルコール性肝疾患(ALD)でもない、非アルコール性(NAFLD/NASH)でもない中間の飲酒量をMetALDと診断することになりました。(メタボリック症候群の基準の一部を満たす必要あり)
NAFLDでメタボリック症候群の基準に1つも満たさない場合をcryptogenic SLDと分類し、特定の原因による脂肪性肝疾患(SLD)をspecific aetiology SLDと分類することになりました。
脂肪性肝疾患の分類
SLD(脂肪性肝疾患)
脂肪性肝疾患全ての総称です。
アルコール性も非アルコール性も、血液検査が異常も正常も含めた様々な病態が含まれています。腹部超音波検査を初めとした画像検査で診断します。これから説明する用語は全てSLDに含まれます。
MASLD(代謝機能不全に関連した脂肪性肝疾患/代謝異常に関連する脂肪性肝疾患)
従来のNAFLD(飲酒を伴わない脂肪性肝疾患)とほぼ同様の意味ですが、「少なくとも一つの心血管代謝危険因子(平たく言うと動脈硬化の原因)があること」という条件がつきました。即ち下記の5つの項目のうち少なくとも1つ以上を有することです。
MASLDにおけるメタボリック症候群の基準(少なくとも1つ以上)
1.肥満:「BMI≧23」あるいは「腹囲男性>94cm、女性>80cm」
2.糖尿病/耐糖能障害:「空腹時血糖≧100」 「食後2時間血糖≧140」 「HbA1c≧5.7」 「2型糖尿病の診断あるいは治療」
3.高血圧症:「血圧≧130/85」あるいは「高血圧治療」
4.中性脂肪:「中性脂肪≧150」あるいは「高脂血症の治療」
5.HDLコレステロール:「HDL≦40」あるいは「高コレステロール血症の治療」
4と5は脂質異常症としてまとめると4つの分類になります。
肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症のうち少なくとも1つという条件はとても緩い基準のため、これまでのNAFLDの診断の多くがこの条件を満たしてMASLDとみなせると考えられます。
MASLDの治療は基礎疾患の治療と運動/食餌療法がメインとなります。
MASH(代謝機能不全に関連した脂肪性肝炎)
MASLDの中で肝機能障害があるものをMASHと診断します。肝疾患が進行して肝硬変や肝臓がんになりやすいタイプです。これまでのNASHがほぼMASHと診断されます。
肝機能障害の具体的な基準値は示されていません。
MASHの治療は基礎疾患(糖尿病/脂質異常症/高血圧/肥満など)の治療と運動/食餌療法だけでなく、状況に応じた内服治療が必要とされます。
MetALD
これまでNAFLD(非アルコール性)よりも飲酒はあるものの、ALD(アルコール性肝障害)に当てはまるほどは飲まない人はどちらにも分類できませんでした。
中等量の飲酒を伴うMASLDを現すカテゴリーとしてMetALDが新設されました。
アルコール摂取量が女性で1日平均20-50 g、男性で30-60 gであり、更にメタボリック症候群の基準の一部を満たす脂肪性肝疾患をMetALDと診断します。
現在、日本の学会では正式な日本語訳がないようです。
Specific aetiology SLD(特定成因脂肪性肝疾患)
薬剤性(DILI)による脂肪肝やウイルソン病などの単一遺伝子疾患による脂肪肝、C型肝炎による脂肪肝などが分類されます。
cryptogenic SLD(原因不明の脂肪性肝疾患)
NAFLDでメタボリック症候群の基準の何れも満たさないSLD。
ALD(アルコール関連肝疾患)
長期(通常は5年以上)にわたる慢性的な過剰飲酒が原因と考えられる肝障害です。肝機能異常の評価、飲酒量・飲酒歴の確認、アルコール以外の原因の除外が必要です。